第二回いっしょに知ろう「てんかんストーリー」

20代から自らのてんかんを学び、消防のボランティア活動に参加するなど、誰かの助けになりたいと日々過ごされているアキオさん。長年にわたって関係を築いてきた主治医や、周辺の方々との付き合い方を通して、どのようにてんかんと向き合ってこられたのかをご紹介します。

いつ頃てんかんと診断されましたか

9歳のときに急性腎炎による高熱から、全身けいれんを起こしたのが最初の発作でした。その際はてんかんという診断が出なかったのですが、その後、複雑部分発作の症状が続いたため、複数の病院を経て、脳波検査のできる病院でようやくてんかんと診断されました。家族や親類にも、てんかんのある人はいなかったため、当時は病気のことも抗てんかん薬のこともよくわからず、ストレスから両親とも喧嘩しがちになりました。ただ当時は、学校でのてんかん患者の扱いもはっきりとは定まっていない時代だったので、体操やプール、遠足なども他の子と一緒に楽しむことができました。今では考えられないことですが、幸いなことだったと思っています。

社会に出て、お仕事をされるようになってからはいかがでしたか?

中学生くらいのとき、近所の八百屋さんが、「ウチを手伝ってくれないか?」と声をかけてくれたのです。もともと料理が好きで、母親の手伝いもしていたので、喜んでそのお店で働きはじめました。20歳が間近になり、きちんとした就労をしないといけないと思いたち、大手フルーツパーラーの募集に申し込んだところ、採用となりました。働きながら調理師の勉強をしている最中、会社のレストラン部にも配属されました。しかし、当時はこの病気では調理師の免許は断念せざるを得ない*1ことを知ることになり、大きなショックを受け、発作が何度も起こるようになってしまいました。しかし、友人に紹介された会社で働くうち、パソコンの学校に通ったり、ホームヘルパーと視覚障害者のためのガイドヘルパーの資格を取得したりするなど前向きな気持になっていきました。そして、もっとてんかんや抗てんかん薬について勉強したいと思うようになり、てんかん協会*2に入会しました。

遠足に行く子供
診察を受ける男性

てんかんについて学ばれたことで、変わったことはありましたか?

それまでは、両親やいろいろな医師の指示に従って治療をしていましたが、てんかん協会で勉強を重ねるなかで、今飲んでいる薬の血中濃度はどのくらいか、発作を減らすために薬を調整できないのか、副作用が出たときの対処はどのようなものがあるのか、といった様々な疑問が湧くようになりました。こうした自分の疑問にきちんと答えてくれる医師を探し求めて、現在も主治医としてお世話になっている専門病院の先生に出会うことができたのです。先生は私の気持ちを汲んで、一緒に治療計画を立ててくださいました。今から数十年前の話になりますが、気分が落ち込んで入院をお願いしたときのこと、先生は「病室の中にいるだけでお金を使うならば、そのお金を使って自由なところを一人で計画も立てずに旅をしたらどうです?」と言ってくださいました。私が鉄道も好きだったことを知っていてのアドバイスだったのです。今でもそのことは、私を前向きにさせてくれています。自分のてんかんを知り、積極的に向き合うことで、良き先生と信頼関係を築けたのだと思います。

周りの方々とはどのように接してこられたのですか?

以前、自宅近くのコンビニで缶コーヒーを買おうと並んでいたのですが、一瞬気が遠くなって、レジに着くまでに飲んでしまったことがあります。薬の副作用で口が渇く症状があったからでしょう。レジの方も、私の病気を知っていてくれたので、笑い話にしてくれましたが、全然知らない人だったら、事件にされかねないようなことです。私は、近所や職場の人々には恥ずかしいと思わずに、いつでもてんかんのことをオープンに話しています。この店員さんには以前、自分がてんかんであることをお伝えしていたのです。

消防のボランティアの活動にも参加されているのですよね?

まずは、人、社会のために何ができるかを考えていきたいのです。そう考えたきっかけは、若い頃、両親を続けて亡くし、自分になにかできたら二人を助けられたかもしれない、勉強しておけばよかった、という後悔からです。消防のボランティアで学んだおかげで、叔父の一命を救うことができました。先日も、猛暑で熱中症になった職場の仲間の簡易な手当をしたこともあります。あとは、視覚障害者の方々が公共交通機関に乗ってこられたときは、こうした方々へのガイドヘルパーのルールに則ってお助けしたり、長年学んでいる手話を使って、てんかんの単純発作で声が出なくなってしまった仲間のサポートをしたりしたこともあります。

急病人を助ける男性

今後の目標や、夢などを教えていただけますか?

人を助けるための学びは、今後とも積極的に続けていきたいです。今はコロナでなかなか研修に参加できないのは残念なのですが、消防のボランティアの活動は一層頑張っていきたいです。個人的には自然が好きで、カメラを持って大好きな花の写真を撮って、新鮮な空気を吸ってくると癒やされます。今はなかなかいけませんから、お花屋さんに行くことも多いです。家の庭もそうですが、近所には公園もあるので、草木の手入れのボランティアに参加できたらと思っています。季節の変わり目には体調を崩しやすいですが、咲き誇る様々な植物を愛でるのも一興かと思います。

写真を撮る男性

てんかんをお持ちの方々へ

先生との信頼関係をしっかり築いて、積極的に治療するということです。そのためにも、病院や先生ともしっかり向き合って、良い先生に巡り合うまで諦めてはいけません。こうして巡り会えた先生とは、しっかり相談しながら、生活や、薬の調整などで発作をコントロールすること、そして自分で勉強することも大切です。いま発作がぜんぜんないという方も、あるいは軽くなっていると思われる方も、服用している薬のおかげということを忘れがちになりますが、しっかり継続して飲み続けることが大切ということを知っていただきたいと思います。また、医師だけではなく薬剤師にも、なにか変わったことがあったときは、必ず伝えるといいでしょう。自分に合ったストレス解消法を見つけておき、先生にも相談しながら実行していくのも大切ですね。

*1:2002年の法改訂で調理師、理容師などの免許取得が可能になった。

*2:公益社団法人日本てんかん協会

取材日:2021年8月