第六回いっしょに知ろう「てんかんストーリー」

てんかんの当事者でありながら、整体師として開業を果たしたかずひささん。丁寧な仕事ぶりに定評のある、かずひささんの整体院には、常連のお客さまの笑顔が溢れています。今日に至るまでの道のりを、かずひささんに伺いました。

ご自身のてんかんについてお聞かせください。

大きな発作があったのは小学校4年生のことでした。昼休みに遊んでいたと思ったら、突然記憶が無くなっていたんですね。小学校の保健医の先生からきちんと診てもらった方がいいと言われ、地元の脳神経外科に行きましたが、はっきりした診断は出ませんでした。
小学校から中学校まで、度々発作を起こしていました。高校1年生になった時、静岡のてんかん医療センターに行き、MRIを撮ると、前頭葉に影があることから、「てんかん」であることをはっきりと知らされました。

学生時代はどんな思い出がありますか?

小・中学校の頃は、それまで仲良くしていた友達が発作を目にして離れていくという経験を繰り返したためか、積極的に友人を作るのを避けていました。
高校は県外の全寮制の男子校に進学したのですが、ある時全身痙攣を伴う発作を起こしたのをみて、この様子をからかう先輩がいたんです。そのうち、からかいがエスカレートし、学生寮の風呂場で熱湯をかけられるなどしたため、耐えきれず激しく反撃しました。それからは、からかわれることもなくなりましたし、不思議なことですが、いじめを受けやすいような下級生などから、私と一緒にいると安心だということで、頼られたりしていました。

学生時代

高校卒業後は、また違う県の福祉系の短大に進むのですが、ここでも発作を起こして敬遠されたことから、周りとは距離を置くようになりました。この頃は、正直、人間不信で、人の目がキツイとさえ感じていました。
ただ、子供の頃から続けていた剣道の仲間は、発作や、てんかんということがわかった後でも、変わることなく付き合ってくれていました。高校から短大の頃は地元を離れていましたから、こうした交流がなかったことも辛かった理由でしょうね。

学生を終えられてから

学生を終えられてからは、どのようにお過ごしになられましたか?

なかなかうまくいかなかった短大をやめて、地元に戻り、「このままではいかん!生活できん!」と自分を奮い立たせて、今後のことを真剣に考えました。そこで、軽作業を行う作業所で働き始めました。
ある日、この職場で発作を起こし、全身の力が全く入らず、目は開かないものの、意識だけはしっかりある状態になりました。その時、「おい、二階に連れて行ってやれ」という掛け声と共に、一人の同僚が私を担ぎ上げて階段をのぼって運んでくれているのがわかりました。「枕を用意して」、「頭打ったらいけんよ」と複数の男女の声が聞こえてきました。誰もが私のことを真剣に心配してくれているのが伝わってくるんです。本当に嬉しかったですよ。後日知りましたが、担いでくれた人は、私よりずっと小柄な人で驚きました。
こんな積極的に助けてくれる人たちがいるのだと知り、人間不信は解消されましたし、勇気をもらえました。

整体のお仕事にはどのように関わられたのですか?

作業所に通って2年が過ぎた頃、猫背を気にしていた私はカイロプラクティックの整体院を訪ねました。治療を受けて猫背が改善したことに驚き、「あ、すごいな!こんな仕事もあるのだ」と、感銘を受けてその仕事に興味を持ちました。整体院の先生に、「てんかんという病気を持っているけど、この仕事はできますか?」と尋ねると、「てんかんを持っている人でもやっている人はいるよ」と言われ、カイロプラクティックにチャレンジすることを決めました。その当時、午前中は作業所に通いながら、午後はこの先生の弟子として4年間働きました。その後、整体師として独り立ちし、今年で9年目を迎えることができました。

今のお仕事のやりがいや、大変なことはどのようなことですか?

お客さまに、「楽になった、本当にありがとう」と言われることが何よりも励みであり、自分のエネルギーの源になっています。私の整体院は時間ではなく、「施術一連」での料金体系になっていますので、「こんなに長くやってもらったのに悪いね」と言っていただくこともありますが、とにかく、きちんと満足して帰っていただきたいという思いが強いんです。もちろん苦労はありますよ。今はコロナ禍で、来たいけどお越しになれない方もいらっしゃいますから。それと、来院される方の中には、柔道をやっていて体のゴツい方なども多いので、自分も常に腕っ節だけは鍛えています。

今のお仕事のやりがいや、大変なこと
取り組んでいかれたいこと

現在の症状はどうなのでしょう?また、心がけていることはありますか?

私の症状は、前兆がなく、急に発作が来るので、薬でのコントロールは重要です。
服用中は、睡眠時間をしっかり取ること、ストレスを溜めないことを徹底しています。普段できることとしては、自転車で近所を走って気分転換をしたり、地元のパン屋さん「こむ・わかさ」でコーヒーを飲んだりしています。また、休日はてんかん当事者の自助の会に参加しています。

今後、かずひささんとして取り組んでいかれたいことはありますか?

今の整体院で多くの方に少しでも癒しの時間をご提供できたらいいな、と思っています。
趣味は絵を描くことです。よくあるのが、自転車で走っていて、「この風景いいな」と思ったら写真を撮り、これをもとに別の風景を想像して組み合わせて描くんです。
以前、中学校の校庭の桜と、赤富士を頭の中で組み合わせた作品を描いたこともあります。
また、料理をするのが好きで、味を少しずつ変えたりすることで、日々新たな発見があるのが嬉しいですね。

てんかんと診断された方や、今も治療中の方々へ

私も昔は「発作が起きたら、どうしよう!どうしよう!」と不安でいっぱいでしたが、信頼できる人々の存在と、薬による適切なコントロールで、今はリラックスした日々を過ごしています。
お医者さまとは、目を見てしっかり対話すること、また、特に、日々の症状を小まめに記録することをおすすめします。メモをしておくと、「前は10分以上発作が続いていたのが、この頃は数分で治るようになった」とか、薬によるコントロールが実感でき、安心できます。
あとは、「病は気から」ではないですが、「発作は出ん!」と自分に言い聞かせています。
てんかんは「個性」で、なんら引け目を感じる必要はないです。そして、自分でやりたいと思ったことをとことん突き詰めれば、必ず夢は叶うと信じています。
そして、何より他人を信じ、自分を信じるということが大切です。
てんかんであることを気にしておったら、誰とも会えんじゃないですか。
自分の中の思い込みを脱して、自分らしい生き方をされたら良いと思います。

取材日:2022年9月